遠隔触診を可能にする医師用手袋

2000年7月 7日

Lynn Burke 2000年07月07日

患者の腹部を診察する際、医師は押したりしながら、膨らみやしこりがないか探る。したがって、推測の大半を手に頼らなければならないことが多い。

肝臓の固さや豆粒大の腫瘍、脾臓の腫れなどはこうした触診で診断され、その後、膨らみやしこりの大きさと位置を正確に記録する高解像度でのスキャンが行なわれることも少なくない。

だがMRIがない僻地では、触診と技術を融合させたこの方法はあまり役に立たない。遠隔地に住む患者は、遠方からはるばる検査や撮影を受けに医師のもとに出向くことも多い。

けれどもニューヨーク州立大学(SUNY)バッファロー校の研究グループが開発中の新しいバーチャル・リアリティー手袋によって、こうした状況も変わりそうだ。

同大学のバーチャル・リアリティー研究所の責任者で、このプロジェクトの研究主任であるセンクルッシ・ケサバダス氏によると、指先に小型センサーがついたこの手袋なら、押したときの感触をそのまま他の人に伝えることができるという。

その仕組みは以下の通りだ。医師がこの手袋をはめて患者を診察すると、そのデータがコンピューター・システムに保管される。そして触覚フィードバック装置を通じて他の医師に情報が送られる。この装置は、裁縫用の指ぬきのように片方の手にフィットする小型ロボットで、持ち運び可能だ。このロボットを利用すれば、コンピューター画面で画像を操作し、そのバーチャルな操作に対応した実際の感覚を感じることができる。

「(コンピューター画面でポインターを使って)そこをつつくと、実際に触れているような感覚を指に感じる」とケサバダス氏は語る。

簡単に言えば、手袋があれば、医師と患者が同じ部屋どころか、同じ州にいる必要もないのだ。この手袋は医学界に大旋風を巻き起こしそうだ。

「医学的な見地から言うと、この手袋は多くの理由から重要だ」と言うのは、手袋の設計に携わった、SUNYバッファロー校救急医療学科のジェームズ・メイローズ助教授。

メイローズ助教授によれば、この手袋は教育面でも重要な意味を持ち、新米医師が触診テクニックを身につける方法を大幅に改善する可能性があるという。

この手袋のシステムは、米国立衛生研究所の『ビジブル・ヒューマン・プロジェクト』をベースにしたもの。同プロジェクトは、3D画像によって男女の全身を詳細に表現しようというもので、当初はハイテク教具として構想された。

だが、このプロジェクトは視覚教材でしかなく、いわば解剖用デジタル死体だ。その点、この手袋は異なる。

「触診のときに何を感じて何を探せばいいのか医学生に教えるのは、非常に難しいことだ。(この手袋は)どれだけの力をどの方向に加えるかを教えてくれる」とメイローズ助教授は言う。

この手袋については現在、エリー郡メディカルセンターで人間の被験者を使って臨床研究が行なわれており、研究者たちは2年以内に実用化されると見ている。

メイローズ助教授によれば、最初のうちは、自分の存在がバーチャル手袋に取って代わられると考える医師からの抵抗がありそうだという。だが、そんなことはないと助教授は主張する。

「この手袋によって、医師が触覚を失うわけではない。われわれは医師の触覚を高めたいのであって、それを奪おうとしているわけではない」

この新しい手袋は、来月シカゴで開かれる『医学物理学および生物医学工学世界会議』で正式に発表される予定だ。

[日本語版:矢倉美登里/柳沢圭子]

WIRED NEWS 原文(English)

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