秋山東一(建築家)インタビュー (1)
2003年4月15日
個人の‘自立’をうながす住宅システム「Be-h@us 」

(※この記事の初出は、「Hotwired Japan」 2003年4月15日となります。)
Text: 江坂健
これからの日本社会の成長は、かってのように量産拡大ではなく、個々の生活の‘質’をいかに獲得するか、ということが課題になるのだろう。そこで重要なのは、「住宅」のあり方だ。欧米に比べて住環境が劣悪だ、とこれまでもよく言われてきたが、この問題を解決するための具体的な選択肢は乏しい…。そんなことを考えていると、日本の風土にあった「木の家の作り方」をネットワーク上で‘共有化’し、オープンソースのような存在にしようとするBe-h@usというプロジェクトを知る。
このプロジェクトを考案した秋山東一氏は、屋根面の太陽熱で空気を暖め、その暖気を住宅内部に導入するというパッシブソーラーシステムのOMソーラー向けに、フォルクスハウスというシステムを提案している。こちらはすでに、日本各地で2000軒以上が施工されている。秋山氏がこの考えをさらに推し進めたものが、Be-h@usだ。
Be-h@usでは、セルフビルド・DIYするユーザーをも想定し、部材マニュアル、部材価格がネット上に公開され、さらに設計支援ツールまでが、シェアウェアとして公開されている。
その秋山氏に、まず、日本の住宅問題の現状をどう捉えるのか、ということから伺った。
個人個人が住宅を「作る」という行為を取り戻す
――日本の住宅の問題を、どうお考えですか?

美しくない街並、日本中どこにいっても同じ風景、そして、個々の住宅は「高価・不健康・短命」であるという欠陥を指摘されています。ある意味で「ハードの問題」の解決を目指す答えは決まっているように思います。高気密・高断熱そして換気、自然素材、加えて高い耐用性をもった設計といったところでしょうか。それは更には、エコロジカル、サスティナブルという形の提案へと向います。
しかし日本の住宅の問題を、ハードの問題だけにしてしまうのは大きな間違いであると考えています。大きく宣伝され、ベストセラーになっている『いい家が欲しい』という本があります。「既に建ててしまった人は読まないでください。ショックをうけますから」というような宣伝コピーで、住宅のハードの問題とユーザーの損得だけという話のようです。日本の住宅の問題は、個々の住宅の「ハードの問題」で解決するわけではありませんし、美しい街並を取り戻すこともできません。
――それは、どういうことですか?
現代の住宅の問題は、生産者と消費者とが分断している、ということにあるのではないかと考えています。本来、住宅の作り方は伝統的、地域的な「共有知」に基づいたものであったはずですが、それを支えていた伝統的地域共同体の崩壊とともに、ハウスメーカーや工務店、設計者というような、生産組織の経済行為としての住宅の作り方に取り変わってしまったのです。
――──なるほど。
今、個人が住宅を得ようとした時に必ず行われる行為は、工務店を選択、住宅展示場でハウスメーカーを選択、あるいはよく分からない設計者を選択する。そこには個人が「作る方法」を「選択」したという行為はあっても、決して「自分が作る」という発想や自覚はありません。これは生産する側と消費する側に引き裂かれている不幸な世界であって、消費者には「選択」することしかできないのです。これは現在、我々の属する世界の問題なのです。一人一人の個人が、住宅を「作る」という行為を取り戻さなければならないのです。
――一般の市民は、住宅にどう関わるべき、とお考えですか?
一般の市民と、そうでない人=非一般市民との違いは、やはり、消費者と生産者、素人と専門家の違いということになるのでしょう。消費者であり素人である一般市民が、自分自身の家の作り方を取り戻すことが、 Be-h@us の目的といえます。セルフビルド、知的セルフビルドすることは、住宅を理解することから始まり、Be-h@us を鍛えていくことにつながっていきます。住宅を作る以前から、住宅を作ることを学び、理解し、自己を鍛えるべきです。そして、だれもが「知的セルフビルダー」になるのです。
――自分で建てる=‘セルフビルド’の重要性を、もう少し説明していただけますか?

自分の住宅をセルフビルドするということ、それは、唯一、生産者と消費者の分断という現代の問題を解決する方法だと思います。「労働者=消費者=市民が自分自身で住宅を作る」というのは、まったく矛盾のない世界です。しかし、誰でもセルフビルドができるわけではありませんし、どこでもできるわけでもありません。
セルフビルドというと、ログハウスをイメージし、汗臭い姿をイメージされますが、そういう形だけではありません。計画し、理解し、という知的な部分が大部分だと私は考えます。その知的な部分、自分自身で理解し実行することを「知的セルフビルド」と呼びたいと思います。
昔、AppleII の時代、スティーブ・ジョブズが「手で持ち上げられないコンピュータを信用してはいけない」なんて言ったという話がありますが、セルフビルドできない住宅、あるいはセルフビルドできるようになっていない住宅を信用してはいけない、と言えると思います。
――自分でも建てうる、ということは、ある種の「自由」を獲得する、ということでしょうか?
そうです。自分自身で「自分の家を建てる、建てうる」ということは、「建てるという自由」を獲得したことになります。この自由は、自然と与えられるものではありません。学習し、理解し、まさしく「獲得」することなのです。
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