藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

ヨーロッパ人が忙しくない3つの理由

2008年2月25日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

前回、マクドナルドの裁判を足がかりにして、管理職の範囲の問題や忙しさなどについて浅知恵を巡らしてみました。それにしてもですね、なんで日本人はこんなに疲れているのでしょうね。ワタシの勤め先はかつて通常残業省などと揶揄されたりしたところですが、今もあんまり状況は変わっていないです。

しかし、ブラッセルに赴任して欧州委員会の官僚を相手に仕事するようになった時、いや驚いたのなんのって。彼らの優雅なこと!昼は2時間かけてランチ。6時にはオフィスは無人状態。夏は一ヶ月間バカンス。おまけに給料ははるかに多い。ワタシ心に誓いました。来世も役人やるとしたらヨーロッパ人に生まれて欧州委員会に勤めようって。

ということで、当然のこととして何が彼我の差を生むのか、非常に関心をもったわけです。そこで仕事で彼らに会ったついでにいろいろ質問してみることにしました。その甲斐あって大体わかりました、そのわけが。
ズバリ、欧州官僚が忙しくない3つの理由!

理由1:自分に甘く他人にも甘い

ワタシが仕事で追いかけていたEUのある法律に「○年○月までに見直しをすべし」と規定されていました。にもかかわらず担当部局からドラフトも出てこないし、待てど暮らせど何の反応もない。聞いても要領を得ない。結局、何もしないまま期限が過ぎてしまいました。日本だったら担当局長はクビですね。国会で大騒ぎになって新聞は書き立てる。でも彼の地では...
欧州委員会は説明しました。「担当がバカンスもあり忙しかったため」!
議会はこう反応しました。「じゃ、仕方ないですな」!!
 
理由2:同じ仕事をずっとやる
 
あちらでは基本的に仕事が変わりません。多くの人が10年、20年と同じことをやっている。それくらいやっていると何か案件が発生しても先がだいたい見通せるそうです。「ああ、この件はこうして、ああして、こうすればOK」みたいな。だから無駄なことはしない。一方、こちらは平均2年で全然ちがう仕事に回ります。必然的にがんばってキャッチアップすることの繰り返しになります。ワタシの今の交渉相手もワタシが入省した20年前から同じ交渉やっている人たちです。「おまえの前任の前任はああで、その前任の前任はこう言っていた」なんてね。彼らときたら交渉の前一週間バカンスに行っていたりするわけです。こっちは休日返上で勉強してきたのに!

理由3:権限委譲が徹底されている
 
10年、20年と同じ仕事をやるということも一因かもしれないのですが、担当者への権限委譲が徹底されています。一々細かく上に相談したり説明したりしません。上司への説明のために費やす時間は明らかに日本より短いようです。これは単に組織内だけではなく、議会との関係でもそうです。法案の責任は担当者(日本の役所では課長補佐クラス)が負っており、彼らが自ら議会で議員の質問に答えることもあります。

ま、理由1は日本じゃ真似できないですね。日本の社会ほど自分に厳しく他人に厳しいという社会、他にあんまりないような気がします。ヨーロッパと日本を対極にしてその間に日欧以外の全世界が入るような(笑)。もう価値観のちがいとしか言いようがない。

理由2、これは善し悪しでしょうか。ある友人がこう説明してくれました。「10年も同じ仕事やっていたら飽きるよ。仕事はつまらない。だからヨーロッパ人はバカンスが必要なのだよ。バカンスを目標に単調な仕事に耐えるわけ。」これは確かに一面の真理だと思います。日本の役人は仕事がクルクル変わるので、ある意味「飽きる」ことがありません。仕事はいつも新鮮。だからバカンスを必要としない、と言ってしまうと寂しいけど。

理由3の問題も実は理由1と同根だと思います。日本の組織では会社も役所も同じだと思うのですが、「知りません」って言いづらいでしょ。すべてを「知っている」ことが当然視される。必然的に前後左右、説明ばかり増えるわけです。自分に厳しいからすべて把握していないといけないと思い「説明」を求めることになり、他人に厳しいから「知りません」という人間を許せないわけです。

ということで、理由はわかったような気になったのですが、日本に当てはめても解決方法にはならないなあ、というのが当時のワタシの結論だったわけです。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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