藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

ヨーロッパ人が忙しくない追加的理由

2008年3月 3日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

前回の 「ヨーロッパ人が忙しくない3つの理由」が仰天の大反響(当社比)を呼んだものですから、せっかく来ていただいた新読者の囲い込み(笑)のため予定変更、急遽続編であります。

CSRといえば脊髄反射的にステークホルダー経営とくるわけですが、どこの会社も必ずお客様と従業員を大切なステークホルダーに挙げます。ま、確かにそうなのですが、この二者のステークはある局面では二律背反になるのではないかと思うのです。

ヨーロッパに駐在する日本人の間でよく話題になるのが彼の地の接客態度です。日本の甲斐甲斐しく超効率的な接客に慣れた身には最初「ココは共産主義か」と思われました。本当に。かつての中国やソ連では売り手がお客さんに商品を投げるという話を聞いたことがありますが、ま、さすがにヨーロッパでは投げませんが、でも、それに近い感じを受けたのであります。

レジのオバサンは、近所の知り合いの奥さんでしょうか、仕事ほったらかしておしゃべりに夢中。後ろに行列ができているのに。駅の窓口のオジサン、いたなぁこういうヒト、日本にも、旧国鉄時代。マクドナルドでどうして30分も並ばなきゃいけないの?お姉さん、手際悪すぎ。いつもポテト一つ足りないし。しかし、ヨーロッパのお客は文句を言わないのであります。じっと黙ってレジのおばさんの世間話が終わるのを待っている。

ひるがえって、お客様はカミサマの我がニッポン。出張で来てタジロギました。コンビニで130円のおにぎりを一つ買ったワタシはベルギーでクルマ買ったときより丁重に扱われたのであります。申し訳なくって、「スミマセン、次はもっと買います」と心中深くお詫びしたのであります。さらに驚いたのは、些細なこと(とワタシには思えた)でよい身なりをした紳士が店員に食って掛かっているではありませんか。この紳士、ヨーロッパに来たらきっと3日で脳の血管切れちゃいます。

先日ある新聞に「感情労働」の記事が出ていました。自分の感情を押し殺すことを強いられる仕事の、時間や肉体的な疲労度とは別の労働強度であります。接客の仕事はその典型でしょう。理不尽な客にも笑顔を絶やさずへりくだる。ますます増長する一部の「お客様」。あらゆる不平不満に対応すべく精緻さを極めていく日本のサービス。でも一部では従業員の精神的肉体的健康と衝突をきたしているような気がします。日本に帰って思いました。人間の笑顔って総量一定かもなって。ヨーロッパ人はお客さんには日本人ほどニコニコしませんが、仕事を離れたらそれなりに愛想がよいです。他方、日本では誰も職場で笑顔を使い果たしてしまうかのようです。

実はわれわれはお客という立場で「カネ」にものを言わせることで、互いに互いを追い詰めるという悪循環に陥っているのではないでしょうか。会社にしても顧客の要求への対応と従業員の人間としての尊厳の尊重、この二つのバランスを考えるべき時にきているのではないかとも思うのです。ステークホルダー経営の一環として。

ヨーロッパ人が忙しくない理由の一つ:お客様は『カンヨウ』です。

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藤井敏彦の「CSRの本質」

プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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