Gadget Lab

さまざまなガジェットの紹介や、注目製品の詳しいレビュー。

愛するiPhoneのために飯野賢治と作ったゲーム『newtonica』(1)

2008年9月 1日

iPhone/iPod touch用アプリケーションとしてApp Storeで発売開始されたミニマル・ディフェンス・シューティング・ゲーム『newtonica』。その開発者であるゲームクリエイター西健一が、全4回にわたって発売までの道のりを語る。

Appleが好きだ。直感的で官能的なプロダクトデザインと、カウンターカルチャーであり続けるスタンスを愛してやまない。だから初代iPhoneの日本発売が見送られたときには海よりも深い悲しみに打ちひしがれ、加齢臭が洗い流されるほどに枕を涙で濡らした。そんなぼくに希望の光となったのがiPod touchの発表だった。むしろ通話機能なんて要らないという本末転倒な気分になった。何しろ早くマルチタッチインターフェイスに触れたかったのだ。

思いを同じにするご近所さんがいた。友人のゲームクリエーターの飯野賢治だ。ぼく以上にApple好きの彼は、当然のこと、発表と同時にiPod touchをポチッていた。回線が混み過ぎてポチ遅れたぼくは、発売日当日にApple Retail Storeでの購入に賭けた。しかし人気商品のiPod touchを手に入れるまでには苦難の連続。いち早くiPod touchを入手して高見の見物をしてた飯野さんは、ぼくがiPod touchを手に入れた記念にと星形のパネルが敷き詰められたミラーボールの壁紙を贈ってくれた。

静寂と熱狂が渾然一体となったシンプルなデザインが気に入った。宇宙的な広がりを感じることもできれば、球体に閉じ込められていることの抑圧も感じる。動的な印象もあれば、静的な印象もある。光り輝いている風にも見えるし、iPhoneが日本に上陸しなかったときのぼくと同様に悲しみに沈んでいる風にも見える。

ぼくはすぐにiPod touchの壁紙としてデータを登録した。その直後に彼と食事する機会があったので、ぼくは登録したデータを見せた。ちゃんと使っていることを彼も喜んでくれた。

そこまでならおっさん2人の軽くいい話だが、ゲームクリエーターであるぼくらとしては、単に壁紙を眺めているだけなのが気に入らない。

「このミラーボールさ、指でフリックしたらクルクル回ると楽しいのにね」
「回るだけ?」
「それじゃシンプルすぎるから、どーせならピンチイン&アウトできたら、きっともっと楽しいよね」
「ピンチイン&アウトしてどーすんのさ?」
「それでクルクル回ってさ、さらにキラキラ光って、ガンガン音が鳴ってれば、楽しくはないかも知れないけど、気持ちいいんじゃない?」
「そりゃ気持ちいいよな」
「だよなー」
「でもそれじゃ、インスタレーションアートみたいでゲームじゃないね」
「うん。ゲームじゃないね」
「どうすりゃゲームになんのかね?」
「ちょっと考えてみようぜ」
「いいねー。考えよう」

そんな他愛ない話で朝まで盛り上がったのだが、お互い本業に急がしくて、いつしかそんな話は忘れていた。

そんな時である。iPhone 3GとApp Storeの構想が突然発表されたのだ。すぐにぼくは飯野さんに連絡を入れた。

「知ってる?」
「iPhone 3GとApp Storeのことでしょ?」
「うん。知ってるじゃん」
「そりゃ知ってるでしょ」
「出番が来たよね」
「うん、舞台が整った」
「…で、どうする?」
「先ずはぼくの方で企画の叩き台をまとめるから、それを元に話をしない?」
「なんかアイデアあるの?」
「現状はなにもないけどさ、あの星形パネルのミラーボールをフリックで回すことを軸にして、基本的にはビジュアルとサウンドはミニマルな方向でと思うけどどう?」
「うん、それがいいと思うよ」
「だったらその方向で考えるから1週間時間をくれ」
「オッケー。頼んだ」

そんなやり取りをしてからの1週間(実際は1ヶ月)ぼくは考え込んだ。ゴージャスなビジュアルやサウンドやゲームシステムで飾り付けていくことは可能だし、そこにストーリーやキャラクターを配して世界を作って行くことはできる。しかしAppleがデザインしたプラットフォームに向けてゲームを作るのだから今までの方法論は捨てるべきだ。なぜならゲームマシンでもないiPhoneやiPod touch用に、いわゆるゲームを落とし込むのでは違和感があるし面白くない。大きな方向性としては何かを付け加えて行くよりも削ぎ落として行くべきだ。なにせコンセプトはミニマルなのだ。しかしプレイヤーが行った動作がチャンスもピンチも招くというインタラクションの基本を壊すわけにはいかない。ゆったりたらたらプレイしたら難易度が上がりにくいが、果敢に挑めば難易度が急上昇するハイリスク&ハイリターンな感じも大切にしなければ…。

ぼくはゲームの企画を考えるのが本職だ。しかし今回のnewtonicaは今まで作って来たモノとは全く違った。同じ陸上競技とはいえ、マラソンランナーが100メートルを走る様なものなのだ。どうしたってペース配分を考えることが身に染み付いているのに、ペース配分もへったくれもない。一気に全速力で駆け抜けるだけ。

そうこうしてるうちにぼくは痛風で倒れた。

つづく

Apple Store, Ginzaで無料イベント開催決定!
WIRED VISION presents:iPhoneのために作ったゲーム 「newtonica」

「newtonica」の開発者であるゲームクリエイターの西健一氏とサウンドを担当したKenji Eno氏が、発売までの道のりとiPhoneに対する想いを語る対談とインストアライブ。WIRED VISION掲載記事と連動したこのイベントに、ぜひご参加ください。

日時:10月2日(木)6:30 p.m. - 8:00 p.m.
場所:東京・銀座 Apple Store, Ginza 3Fシアター

newtonicaユーザー先着50名様に特製オリジナルTシャツプレゼント!
イベントの詳細情報

フィードを登録する

前の記事

次の記事

Gadget Lab

西健一

1967年東京生まれ。スクウェアを経て有限会社LOVEDELICを設立。moon(PS)をリリース後、坂本龍一氏とL.O.L.(DC)を共同開発。その後に有限会社SKIPを設立しギフトピア(GC)・ちびロボ!(GC)・アルキメDS(DS)のディレクターを務める。2006年に有限会社Route24を設立しフリーランスとして活動中。最近は素粒子加速器を通して見る宇宙の謎とカーボンオフセットに夢中。

過去の記事

月間アーカイブ

ブログ一覧

  • Danger Room
  • Wired Science
  • Compiler
  • Gadget Lab
  • Cut up Mac
  • Epicenter
  • Autopia
  • Listening Post
  • from Wired Blogs
  • 飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」
  • 小島寛之の「環境と経済と幸福の関係」
  • 白田秀彰の「網言録」
  • 濱野智史の「情報環境研究ノート」
  • 増井俊之の「界面潮流」
  • 歌田明弘の「ネットと広告経済の行方」
  • 小田中直樹の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」
  • 携帯大学 web分校
  • 藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」
  • yomoyomoの「情報共有の未来」
  • 山路達也の「エコ技術研究者に訊く」
  • 木暮祐一の「ケータイ開国論」
  • 関裕司の「サーチ・リテラシー」
  • 藤田郁雄の「サバイバル・インベストメント」
  • それは現場で起きている。
  • 佐々木俊尚の「ウィキノミクスモデルを追う」
  • 藤井敏彦の「CSRの本質」
  • 白田秀彰の「現実デバッグ」
  • 藤倉良の「冷静に考える環境問題」
  • 石井孝明の「温暖化とケイザイをめぐって」
  • 竹田茂の「構成的アプローチ」
  • 後藤和貴の「ウェブモンキーウォッチ」
  • 合原亮一の「電脳自然生活」
  • Web2.0時代の情報発信を考える
  • ガリレオの「Wired翻訳裏話」
  • 高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」
  • 合原亮一の「科学と技術の将来展望」
  • 渡辺保史の「コミュニケーションデザインの未来」
  • 松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」
  • yah-manの「イマ、ウェブ、デザイン、セカイ」
  • 西堀弥恵の「テクノロジーがもたらす快適な暮らし」
  • 佐々木俊尚の「電脳ダイバーシティ」
  • 荒川曜子の「それはWeb調査から始まった」
  • Intel International Science and Engineering Fair (Intel ISEF)
  • 織田浩一の「ソーシャルメディアと広告テクノロジー」
  • 小田切博の「キャラクターのランドスケープ」
  • デザイン・テクノロジーによるサステナビリティの実現
  • デザイン・ビジュアライゼーションが変えるマーケティング・ワークフロー
  • サービス工学で未来を創る
  • IPTVビジネスはどのようにデザインされるか
  • マイケル・カネロスの「海外グリーンテック事情」
  • 大谷和利の「General Gadgets」

お知らせ

イベントのご案内

子供向けワークショップの博覧会
「第6回ワークショップコレクション」開催