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愛するiPhoneのために飯野賢治と作ったゲーム『newtonica』(3)

2008年9月17日

iPhone/iPod touch用アプリケーションとしてApp Storeで発売開始されたミニマル・ディフェンス・シューティング・ゲーム『newtonica』。その開発者であるゲームクリエイター西健一が、全4回にわたって発売までの道のりを語る。

前回の記事はこちら

痛風の痛みに耐えながら企画をまとめ、株式会社フィールドシステムにパブリッシャーになってもらう交渉を済ませ、Studio-蔵の青木さん兄弟に制作のバックアップをしてもらう手はずまで整えたのに「あのー、悪いんだけどさ。忙しくて、この企画には参加できないや」と言い出した飯野賢治。

「なんじゃそりゃ!?」である。

どうにも納得できないので2人で呑むことになったんだが、そんなときでも息子の宿題を手伝ってて30分遅れてくる始末。

「そりゃないんじゃないか?」と問い詰めて「やっぱり時間を作って頑張るよ」と前言撤回させる意気込みで来たのに「確かにそりゃないよな。ほんとにすまん」と詫びを入れられ、振り上げた拳をどこに治めていいんだか分からない状態。完全に拍子抜けである。

「どこか気に入らないことがあるなら軌道修正するから言ってくれ」と申し出ても「他の仕事が佳境でタイミングが悪すぎる」とのこと。どうにかサウンドだけは手伝ってくれるという話しに落ち着いたのだが、自分でコントロールできる範囲外のことで埒も開かず、ぼくは一気に飯野さん抜きで作るモードに気持ちを切り替えた。

先ずはなんとなく見えていてデザインの方向性を決め込むことに注力。スフィア(画面中央の球体)の外郭のパネルは金属的で人工的な感じにしたい。スフィアの内部のコアは有機的に。そこに降り注ぐ飛来物は外部から体内に入り込むウィルスや病原体みたいなモノでもあり、精神を乱すノイズみたいなモノがいい。

そんな風にイメージスケッチを描き続けてもらいながら、3DCGソフト上で動くサンプル制作を続けた。

それと平行してプログラマーのスタッフィング。適当だと思われる人を紹介してもらったり、先方の会社に伺うことを続けてみたが、Appleから供給されていたSDKが未だβバージョンで動作不安定だったために「7月11日のiPhone発売とApp Storeのオープンに間に合わせたい」というスケジュールを告げた途端に「そりゃムリだ」と誰もが尻込みする始末。これが6月中旬くらいのことだったので当然といえば当然なんだが、まさに泣きっ面に蜂である。

プログラマーではないので詳しいことは分からないがiPhoneで3Dを扱おうとしたらOpen GLというミドルウェアを使えば1から作る必要がなくて手っ取り早いらしい。しかし同じ3D用のミドルウェアでもDirect Xなら慣れた人が多いもののOpen GLに慣れた人がなかなか見つからない。しかもiPhoneで動作するのはOpen GLのサブセット(簡易版)のOpen GL ESということで、そんなもんを触ったことある人は皆無。

企画の内容とビジュアルの方向性は固まって来ているのだから、早く試作に入って実際に動いてるものに触れてみたいという欲求が募る。ぼくにしたってiPhoneは初めて扱うハードだし、この時点では発売すらされてないので触れたこともないのだ。マルチタッチインターフェイスの感度がどれくらいなのかも分からなければ、ポリゴンの描画能力がどの程度なのかも分からない。さらにCPUの処理スピードや、メモリや、サウンド関連のミドルウェアがどれくらい用意されているのかも全く分からない、完璧なまでの暗中模索状態。

暗中模索で思い出したが、授業中に居眠りしてた生徒が先生にさされて
「おい○○! 暗中模索の意味は?」
と聞かれて、寝ぼけた生徒が
「あなたはモサクさんですか?」
と答えたという笑い話があった。国語の時間と英語の時間を勘違いするほどに熟睡してたわけだ。

話しを戻そう。

あらゆる状況を鑑みるに7月11日のローンチに間に合わせるのはムリだという判断を、ぼくはこの時点でした。苦渋の決断ではあるが仕方ない。万策尽きたわけだ。ローンチに間に合わせるという約束を果たせずに申し訳ない気持ちでその旨をパブリッシャーのフィールドシステムの社長に伝えると、驚くべき言葉を返して来た。

「だったら秋の気配が漂うくらいまでに頼むよ」

ガックし、である。こっちが大慌てで7月11日のローンチに間に合わせようと東奔西走してたのがアホらしくなるほどの穏やかさ。

「そんな暢気なこと言ってていいの?」
と、パブリッシャーのフィールドシステムの社長の鈴木さん(友人)に問い合わせると
「だって仕方ないだろ。間に合わないものは間に合わないんだからさ。そんなに焦ってても苛々するだけだから、この仕事は納期なんかより楽しんだ方がいい」
とのこと。

「しかし秋の気配が漂うくらいまでって、具体的にはいつごろってことよ? 9月くらいってこと?」
「9月はもう秋だろ」
「だったら秋の気配が漂うってのは夏の終わりくらいだから、お盆過ぎくらい?」
「そんなに早くできるのか?」
「そんなに早くって言ってもさ、1ヶ月で完成させようと思って始めたプロジェクトなのに、お盆過ぎにできても2ヶ月かかってるんだよ。当初の目論見の倍じゃない。倍もかかっていいわけ?」
「お互い、倍も目論見が甘かったってことだな」
「甘いって言ってもSDKがまだちゃんと動かないし、スタッフが集まらないんだから仕方ないじゃん」
「だから、そういうことも踏まえて倍甘かったってことよ」

など話して中だるみしているとき、奇跡的なタイミングでプログラマーが見つかった。

そうこうしているうちに
「サウンドの作業できる時間が今しかないからテーマBGMだけ作ってみた」
と、飯野さんからサウンドのデータが送られて来た。
なんとなくの世界観共有はできていたが、さすがにバッチりのミニマルテクノ!!

そこからは怒濤の快進撃。
…とはいえこの仕事だけで生活できる予算があるわけでもないし、なるべくリスクを軽減した方がいいので、基本的には「売れたらギャラをもらいましょう」という契約。なのでみんな本業があるから、仕事は平日深夜と土日に集中する。要するに睡眠不足月間に突入。

iPhoneの環境を一気に解析してくれたプログラマーから、実際のグラフィックデータのフォーマットをどうすればいいか、サウンドのデータをどうすればいいかなどの具体的な指示が出る。それに則ってデータ作成。

実際にiPhoneが発売された7月11日時点で動いていたのがこのバージョン。

今とは違うが、スフィアを覆うスターパネル(星型のパネル)にメテオ(降り注ぐキューブ)が当たるとスターパネルに穴が空き、その隙間にメテオを通過させてコアに当てるゲームだったのだ。

コアと同色のメテオが規定数当たればエネルギーチャージでスターパネルが回復。コアと別色のメテオが当たればダメージでコアが縮小し、コアが消失するとゲームオーバー。

まだまだ未調整で問題も多かったが、感触が分かるレベルの試作品にはなっていたので飯野さんに連絡を入れた。
このバージョンで遊んでもらって意見を聞きたかったのと、仮に鳴らしてるサンプルトラックの鳴り具合を確認してもらいたかったのと、リストアップした残りのサウンド(BGMやSE)の制作が可能かどうかの調整。それと可能な場合のスケジュールの擦り合わせをしたかったのだ。

newtonicaの試作がインストールされたiPhoneを渡すぼく。
iPhoneを受け取って、黙ってプレイする飯野さん。

黙ってプレイに熱中した彼が数分後に言った。
「なんだこれ!? 自分の指が邪魔してなんにも見えないじゃん!!」

つづく

Apple Store, Ginzaで無料イベント開催決定!
WIRED VISION presents:iPhoneのために作ったゲーム 「newtonica」

「newtonica」の開発者であるゲームクリエイターの西健一氏とサウンドを担当したKenji Eno氏が、発売までの道のりとiPhoneに対する想いを語る対談とインストアライブ。WIRED VISION掲載記事と連動したこのイベントに、ぜひご参加ください。

日時:10月2日(木)6:30 p.m. - 8:00 p.m.
場所:東京・銀座 Apple Store, Ginza 3Fシアター

newtonicaユーザー先着50名様に特製オリジナルTシャツプレゼント!
イベントの詳細情報

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西健一

1967年東京生まれ。スクウェアを経て有限会社LOVEDELICを設立。moon(PS)をリリース後、坂本龍一氏とL.O.L.(DC)を共同開発。その後に有限会社SKIPを設立しギフトピア(GC)・ちびロボ!(GC)・アルキメDS(DS)のディレクターを務める。2006年に有限会社Route24を設立しフリーランスとして活動中。最近は素粒子加速器を通して見る宇宙の謎とカーボンオフセットに夢中。

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