グーグルはなぜ電力会社になりたいのか--可能性と影響について
2010年1月21日
(これまでの マイケル・カネロスの「海外グリーンテック事情」はこちら)

2003年のことだったと思う。当時の勤め先(CNET News.com)で同僚だったデクラン・マカロー(McCullaugh)と私は、検索ビジネスの将来や、これから新たに登場してくる会社がグーグル(Google)に大打撃を与える可能性があるかどうか--ちょうどグーグルがヤフー(Yahoo)にそうしたように--について議論したことがあった。
「グーグルは次のインテル(Intel)になる」というのがその時の彼の主張だったことを覚えている。
グーグルを単なるソフトウェア会社やインターネット関連の会社と考えることはもはやできない、と彼は続けた。グーグルの強さの秘密は同社が運営する巨大なデータセンターにある。半導体製造工場を新設することに比べれば、データセンターを建設・運営するコストは大した額ではないが、それでも建設には数億ドル単位の資金が必要で、長期間にわたって運営していくとなればもっとたくさんの金がかかる。ちなみに米国では全電力消費量の1.5パーセントがデータセンターで消費されている。検索や地図関連でグーグルと同程度のサービスを提供したいと考える企業はいずれも、グーグルが擁するこの強大なバックエンドと競い合わなくてはならないだろう。仮にグーグルのアルゴリズムがそれほど質の高いものではないとしても、同社は「力業(ちからわざ)」で競争に勝つことができる。それはちょうどインテルが常に生産能力でAMDを上回れるのと同じようなものだ。
この「グーグルが次のインテル」--つまり競合相手がいないほど強大な存在になるというのは、2003年当時にはいく分ラジカルな考えだったが、その後に起こったさまざまな出来事がこの考えの正しさを証明することになった。実際、グーグルのもつインフラは次第に大きな負担になってきた。同社は、他社との間にあるリードを保ち続け、顧客の期待に応えるために、常にデータセンターの増強を続けなくてはならないが、そのためにかかる土地代や光熱費、ハードウェアの費用は上昇の一途をたどっている。
そして、グーグルがゆくゆくは電力会社(utility)もしくはエネルギー関連サービス提供者のいづれか(あるいは両方)になる理由については、このデータセンターのことを考えれば説明がつく。商業施設や工場、家庭での電力消費量の制御は、おおまかに言って、大規模なコンピュータルームを持つ企業の手に委ねられることになるはずだからだ。
現在はまだ電灯のスイッチを人間が切っている。だが、将来は温度センサーや室内に人がいるかどうかを判断するセンサーからの情報を利用して、電灯のスイッチは自動的にオン・オフされるようになり、またサーモスタットの調節も自動化されるだろう。さらに、その場所を利用する人間の習慣に関するデータがコンピュータによって分析され、それとコンピュータによる建物のシミュレーション結果や気象情報サービス会社からリアルタイムで送られてくる全国の天気についての情報が照合されて、可能な限り多くのエネルギーを確実に節約できるようになる。結局のところ、いまは誰もが忙しすぎてエアコンの調節などに構ってはいられない。ならば、専門家に任せてしまえ、ということだ。
この類の情報処理--24時間休みなく複雑な計算を行うことに関して、グーグル以上に得意なものは他にいない。実際に、建物の管理については、グーグルの利用者が同社を信頼してすでに預けている個人的な好み(に関する情報)のひとつと考えることもできる。それで思い出したのだが、グーグル創業者のラリー・ペイジ(Larry Page)とセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)は同社を立ち上げてまもない頃に、この種のタスクをこなすためのストレージ装置を構築していた。いまこの装置はスタンフォード大学のゲイツ記念ビルにガラスのケースに収められて飾られている。素晴らしいアイデアがあればあとは一箱のレゴだけですごいものが発明できるということが、この装置を見ればわかるだろう。
さて。このような(エネルギー管理関連)サービスを提供するようになれば、グーグルは手持ちのハードウェア資源をより効率的に活用できるようになる。検索サービスの提供コストは時間を追うごとに低下していくだろうが、これはより多くのサービスを提供することが、それだけハードウェア購入コストに関する減価償却の対象項目を増やせることにつながるためだ。Web 2.0系やエネルギー関連サービスを手がける各企業は、強大なグーグル(big G)に足元をすくわれたと文句を言うようになるだろう。また消費者も、自分たちの日々の習慣についてグーグルがより多くの情報を持つことに慣れなくてはならなくなる。
ここで問題となるのは、グーグルの(エネルギー)管理サービスに対して果たして利用者が料金を払うようになるか、ということだ。利用者からお金をもらうのはとても難しいだろう。われわれ米国人はフリー(自由/無料)を求めて生きている。米国国歌を作詞したフランシス・スコット・キー(Francis Scott Key)がもし「勇ましき者の住まうところ、そして10パーセント割引('Home of the Brave, and Ten Percent Off!')」と書いていたら、あの歌が国歌になることはなかったかもしれない(注:正しい歌詞は"O'er the land of the free and the home of the brave?")。世界有数の巨大企業から「使用料の支払小切手を毎月送ってくれ」といきなり言われたら、ふつうの人間は拒むだろう。ましてや同様のサービスが他社から提供されているとすれば尚更だ。
そこで電力会社の出番となる。消費者は将来も電気にはお金を払う。もしグーグルが自社のさまざまなサービスを無料で提供し、それらを競争力のある値付けの電気と組み合わせれば、消費者もいやがりはしないだろう。この組み合わせより優れたパッケージを電力会社が自前で提供することはできそうにない。「ベンチャービート(VentureBeat)」を運営するマット・マーシャル(Matt Marshall)によれば、彼が意見を聞いた電力会社の幹部らは、自分たちのビジネスの縄張りにグーグルが参入してくることを心配しているという。
そうしてグーグルは、ユーザーがエネルギー管理サービスで節約できた金額のなかから、その一部を利用料としてもらうことができる。たとえば、グーグルのサービスを使って電気代を200ドル節約できたら、その金額の半分をグーグルが受けとるといったふうに。このやり方なら、利用者はグーグルにサービス使用料を払う必要があるものの、全体としては節約になる。これはシーメンスなどのエネルギー関連サービス企業がすでに実践しているビジネスモデルだ。
グーグルがこの戦略を実施に移すかどうか、また実施するなら時期はいつ頃になるかという点は私にはわからない。これは私の勝手な想像だし、また私は億万長者のグーグル社員らの目にはおそらく掘っ立て小屋と映りそうな家に暮らしている人間だ。
いっぽう、エネルギー分野への参入により、同社は「もっとも格好いい会社」の立場から滑り落ちる可能性もある。グーグルがいまやっていることに比べれば、エネルギー管理分野の事業は地味だからだ。「ジョンソン・コントロールズ(Johnson Controls)で働いている知人がいる」という自慢話を何度くらい耳にしたことがあるだろうか。あるいは、ハネウェル(Honeywell)の社員食堂で出されるグルメフードについての記事を読んだことがあるか。社内の専属美容師のことなど忘れてしまおう。エネルギー管理分野は、薄くなった頭髪を気にする人間が多く働いているような世界だ。
だが、それでもグーグルがエネルギー分野に参入するというのはいくつかの点でつじつまの合う話と思える。2000年代の前半には、ブリンとペイジはナノソーラー(Nanosolar)のような複数のベンチャー企業に対し、個人的に投資し始めていた。これは、膨大な金を稼ぎそうな企業群に慈善行為として寄付をすることになるから、おかしな組み合わせに思えた。対照的に、ビル・ゲイツのはじめたゲイツ財団(Gates Foundation)では、バイオ燃料を専門とするエイミリス(Amyris)に営利を考えずに資金を提供した。また同社にはマラリア予防のための有望な新薬もあったが。
昨年、グーグルは「パワーメーター(PowerMeter)」をリリースした。この家庭向けのエネルギー管理用コンソールは、グーグルユーザーが個人向けポータルの"iGoogle"経由でアクセスできるようになっている。宇宙飛行士から同社の先進プログラム担当マネージャーに転じたエド・ルー(Ed Lu)はPowerMeterについて、これで金を稼ぐことは考えていないとコメントしていた。「PowerMeterを中心にしたビジネスモデルを構築するつもりはわれわれにはない」(ルー)
その数週間後、ダン・ライシャー(Dan Reicher:グーグルで気候変動対策およびエネルギー関連の取り組みを率いるディレクター)は、記者らを前に「わが社は再生可能エネルギー分野の事業への投資を始めるだろう」と語ったが、こうした投資はふつうは銀行や電力会社などがやるものである。
さらに先月(12月)には、同社はグーグル・エナジー(Google Energy)という名前の会社をつくりデラウェア州で登記した。グーグル・エナジーは連邦政府に対し電力売買の認可を求める手続きをすでにしていると、このニュースを最初に報じたE&E Dailyは記していた。
電力市場への参入を果たした後、グーグルは次に家族計画と葬儀サービスへの進出を考えることになる・・・・かどうかは誰にもわからない。
[著者:Michael Kanellos(Greentech Media)/抄訳:坂和敏/原文公開:1月18日(米国時間)]
原文はこちら:
"Why Google Wants to Be a Utility"
訳者コメント:
いきなり楽屋話で恐縮ですが、今月初めにマイケルカネロスがJAIC Americaさんの(日本アジア投資子会社)カンファレンスに呼ばれて東京に来たとき、「来週末にはマスダール(Masdar)の招待でドバイへ行って来るんだ」と言っていました。記事公開のタイミングから考えて上記の長文エッセイは、きっとドバイへの長時間のフライト中に暇つぶしも兼ねて書いたのかもしれません。
さて。グーグルがエネルギー管理分野に参入し、いわゆる「ディマンドレスポンス」と呼ばれるサービスを手がけるのではないかという可能性がこの文章のなかで指摘されています。まだ「有るとも無いとも言えない」可能性でしょうが、このところのグーグルの一連の動き--とくに"PowerMeter"関連や子会社"Google Energy"の設立など(下記「関連記事」参照)を見ていると、「あながちあり得なくもないかなあ」という思いが浮かびます。
経済的な面で言えば、まずグーグルはいまだに検索広告からの収入がほぼすべてという「一本足打法」の事業内容で、近頃ではGoogle Appsなどのクラウド・コンピューティングほかいろいろと取り組んでいますが目立った結果はまだ出ていません。
もうひとつ参入への誘因があるとすれば、それはエネルギー分野の市場の大きさ。日本の例でいっても、電力分野には広告業界に比べて3倍くらい大きな市場規模がある(いわゆる「4大マス媒体+ネット」の広告市場の年間売上が約6兆円程度、電力市場の年間売上がざっくりと17兆円と言われています)。
グーグルの参入がもしあるとすれば、カネロスが指摘しているデータセンター="計算処理"能力とともに、グーグルのもつ「世界一のブランド力」も大きな競争力になるはず。利用者自身すら意識していない可能性のある生活習慣についての情報を渡すとなれば、よく知らない会社など決して相手にしないでしょうから。
ただし、グーグルに比肩する知名度・ブランド力を持つアップルも、すでにHEM(家庭向けエネルギー管理分野)に関わる特許を申請していることは先日お知らせした通り。
いまはモバイルコンピューティング=スマートフォン分野での両社の対決(「Apple vs Google」)に世間の注目が集まり始めたところですが、ひょっとすると何年か後にはその戦いの舞台がエネルギー分野に移っているかも知れません。
(坂和)
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マイケル・カネロスの「海外グリーンテック事情」
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