yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

インターネットの好ましからざる未来を止め、生成力を保つことはできるのか

2008年6月25日

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本連載の第1回「書籍とクリエイティブ・コモンズとコンテンツの未来」で、Creative Commons のライセンスを適用した書籍について書きましたが、その後の同様の試みを取り上げたいと思います。

これも本ブログの「「自由の真の代償」と「自由の真価」 ~ サイバースペース独立宣言を越えて」で取り上げた『Access Denied』の著者の一人であるジョナサン・ジットレイン(Jonathan Zittrain、WIRED VISION ではジョナサン・ジットレンという表記も多いようです)の新刊『The Future of the Internet and How to Stop It』が発売されていますが、この本は「表示-非営利-継承」ライセンスが適用されており、サポートサイトから PDF ファイルをダウンロードできますし、HTML 版も用意されています。

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「レッシグ以上にオタクでギークな法学者」とも評されるジットレインですが、インターネットにおける著作権、検閲、プライバシーと彼が取り組む範囲は多岐に渡っており、『The Future of the Internet and How to Stop It』はそれを踏まえたインターネット論になっています。

ジットレインがまず俎上に載せるのは、iPhone と Apple II というアップル(スティーブ・ジョブズ)が世に送り出した二つの商品です。いずれも革命的な商品だが、その性質は正反対である、とジットレインは指摘します。

その違いをジットレインは generative(生成力がある、生殖性がある)と generativity という単語をキーに説いています。

Apple II はジョブズ自身その可能性について把握できてはいませんでしたが、誰でもその上でプログラムを実行できる generative な性質により VisiCalc などのキラーアプリケーションが生まれ、ビジネスが成立しました。

一方で iPhone は予め高度にデザインされた製品であり、ユーザーがアプリケーションを追加することはできません。それにアメリカであれば AT&T に対する独占供給といった電話キャリアに関する縛りもあります。

ジットレインが iPhone に代表されるユーザーによるイノベーションを許さないアプライアンスに用いる形容詞は sterile(無菌の、処理済の)や tethered(束縛された)といった肯定的とは言えないものです。

しかし、著者は iPhone をただ貶めているのではありません。そもそも Apple II と iPhone を分かつものは何か? それはインターネットであり、generative なパーソナルコンピュータというプラットフォームと自由にプロトコルを追加できるインターネットというこれまた generative なプラットフォームの組み合わせが情報化社会を急速に押し進めました。

しかしその結果、コンピュータウィルス、スパム、マルウェアなどセキュリティの不安も高まり、それに晒され疲弊した一般ユーザーの多くは、自由度よりも安定と安全を求めるようになりました。それが iPhone、Tivo、そして XBOX といった tethered appliance が歓迎される素地になったというのです。

『The Future of the Internet and How to Stop It』は、今のままではインターネットの未来は tethered な方向に進んでしまう。その流れを止め、generative なプラットフォームを維持する努力をしなければならない、と説く本です。

ワタシ自身はまだじっくり読めていないので浅い感想になりますが、ある種のバランス論なので読者をあっと驚かせるところは少ないですが、前述の通り著者の幅広いバックグラウンドが生かされた良いとっかかりを多く持つ本だと思います。

ただ Adam Thierer も指摘していますが、問題の立て方、未来予測にしっくりこないところもあります。例えばご存知のように、アップルは iPhone SDK を公開しており、コントロールの手綱とエコシステムのバランスを取ろうとするなど、一部現実が本の内容を追い抜いているのかもしれません。あと Wikipedia や OLPC(One Laptop per Child)の取り上げ方など少し安易に思えるところもあります(が、これはワタシの読みが浅いだけかもしれません)。

それでもオライリーのアンディ・オーラムリチャード・ストールマン御大が本書に対して批判も含む長文の論評を行なっており、そうした議論の価値のある本なのは確かです。またこの点に関して偉いなと思うのは、著者は書籍を CC ライセンスの元で公開するに留まらず、HTML 版のほうに段落毎にコメント欄を設けて読者からのフィードバックを受け付けているところです。

あと余談ですが、個人的に面白いと思ったのは、本書のキーワードである generative という形容詞で、少し前に話題となったケヴィン・ケリーの Better Than Free(日本語訳:「無料より優れたもの」)でもこの単語が、インターネットでコピーされない価値として使われています。もちろんジットレインとケリーは同じ意味で使っているわけではありませんが、この単語はインターネットを語る上でポイントとなるものなのでしょう。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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