yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

「プラットフォームとしての政府」が意味するもの

2009年9月10日

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今月末発売予定の『Make: Technology on Your Time』日本版 Vol.8 において、例によってコリィ・ドクトロウの文章を訳しているのですが、今回は「政府をオープンにできないのなら、政府を自分のものにしてはいない(If You Can't Open Government, You Don't Own It)」というタイトルで、ブッシュからオバマへの政権移行に伴うアメリカ合衆国政府の情報公開の変化を論じています。

ブッシュ政権は9.11以降、国家安全を盾に情報公開法をないがしろにしてきました。オバマは大統領就任と同時にそれを正すだけでなく、さらに一歩踏み込みます。

オバマ大統領はその先に踏み込んだ。1月21日のメモで政府機関に指示している。「政府機関は大衆からの具体的な要求を待っていてはいけない。すべての政府機関は現代的なテクノロジーを活用し、既知の事実や政府によりなされていることを市民に知らせるべきである。情報公開はタイムリーに行なわれなければならない」

市民から要求があるから仕方なく公開するのではなく、政府に関わるデータを自発的、積極的にオープンにしていこうというのです。ここでの「現代的なテクノロジー」が、主にインターネットを指すのは言うまでもないでしょう。

オバマが大統領選挙に勝利した大きな要因としてネット活用の成功がよく言われます。オバマ陣営の重要なソフトウェアプロジェクトに関わった ThougtWorks のマーティン・ファウラーによる「ソフトウェアとオバマの勝利」を読むと、ソフトウェアの進歩とオバマ陣営の組織ダイナミクスの発展の相互作用が重要だったことが分かります。

言うまでもありませんが、オバマは Twitter や Facebook を使ったから勝ったのではなく、ネットを通じた支持者の組織化に長けていたことが大きかったわけです。そして大統領就任後のオープンデータへの取り組みも、オバマのネットへの関わりが小手先のものでないことを示しています。そして重要なのは、オバマが選挙戦に続き有権者が主体的に行動することを期待していることです。

ティム・オライリーが Govement 2.0(政府2.0)という言葉をぶち上げたときは、また「○○2.0」かよと正直うんざりだったのですが、TechCrunch への特別寄稿「ガバメント2.0―政府はプラットフォームになるべきだ」を読むと、オライリーの意図がオバマが目指す開かれた政府の取り組み、そして上記の国民への期待に対応するものであるのが見えてきます。

オライリーの文章は例によって散漫ですが、ジョナサン・ジットレインを引き合いに出し、政府のプラットフォーム化、つまりは生成力(generativity)の基盤となることが急務であると説きます。これは政府の Web 2.0 サービスの活用といったレベルに留まらない根本的な話で、オライリーは「DIY公共事業」という言葉を使っていますが、政府がしかるべきお膳立てをしてくれれば後は我々がその上で「キラー・アプリ」を実現できるという強い自助意識、参加意識を感じます。

われわれは往々にして政府を自動販売機のように考えてしまう。税金を入れると橋や道路や病院、警察や消防といったサービスが出てくる、というわけだ。自動販売機から思ったようにサービスが出てこないと抗議活動を行う。市民参加というのが、往々にして、自動販売機を叩いたり揺さぶったりするだけに終わっている。しかしわれわれは抗議の声を上げるだけでなく、実際に手を動かして貢献する必要がある。

オバマ政権の開かれた政府の取り組みは、若き俊英アーロン・シュワルツが立ち上げた政治監視プロジェクトローレンス・レッシグの政治腐敗研究も射程内にするものでしょう。

まぁ、穿った見方をすれば未曾有の経済危機の中大統領となり、内政外交ともに難題だらけの政権運営を強いられる現状では政府が面倒を見れない政治課題が多すぎるため、国民の参加を促さざるを得ない側面もあるとは思いますが、それもコミでオバマの「開かれた政府」、そしてオライリーの「プラットフォームとしての政府」というコンセプトは、21世紀における「小さな政府」のあり方を強く示唆していると思います。

ちょうど本文が公開される頃、オライリーらが主催する Gov 2.0 Summit がワシントンDCで開かれます。ミッチ・ケイパーやクレイ・シャーキーといったオライリーのカンファレンスでおなじみの面子だけでなく、政治監視市民プロジェクト系の人たちからアニーシュ・チョプラ(Aneesh Chopra、合衆国最高技術責任者)、ビベック・クンドラ(Vivek Kundra、合衆国最高情報責任者)といった政府のトップにいたるまで講演者として名前を連ねており、「政府2.0」への関心の高さ、切実さが伝わってきます。

さて皆さんご存知のように、日本では先の第45回衆議院議員総選挙において、民主党が300を超える議席を獲得し、政権交代が実現しました。

選挙結果についての論評はここでは控えますが、個人的には選挙戦並びにその後の報道を見ていて相も変らぬ日本人の「お上」意識の強さが気になりました。実際、イノベーションを阻害する法規制の問題など政治主導で何とかしていただきたい問題も多いわけですが、いつまでも政府を自動販売機のように考えるのではなく、国民が実際に手を動かして政治に貢献すべきというのは日本にも当てはまる話でしょう。我々が政治に関わるのは選挙の投票だけではないはずです。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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